2017/08/31 20:00

砂川 正矩 蕨目 地透鐔ー なぜわらびなんでしょうね。


こちらの鐔、

在銘の 砂川 正矩 蕨目 地透鐔です


江戸後期の良工 春の勢いの良さの伺える良品です。
・直径 約7.5cm・約90g
砂川正矩の作品は京都国立博物館にも所蔵されています。 
 軽くサビは見られますが里帰り(明治時代に海外にコレクションとして流出したものを、米国人アートディーラーが日本に里帰りさせたものなのです。)としては状態は美しく、少しずつお手入れいただければより良い味になるでしょう。


さて、なぜわらびなんでしょうね。
御覧いただける通り本当に柔らかでできが良くて、すんなりしていい鍔。

 わらび、着物の文様としても派手ではないながらひっそり人気のようで。  

それも開ききっていない早蕨の意匠は、古くは弥生土器にも見られ、また、太刀の環頭にも見られます。

 わらびはシダ状の植物で、日陰でもよく繁茂し、また、春の訪れを告げる植物でもあります。
グッと固く握り混んだような先端が春が進むにつれて、ふわっと開いていく様もおかし。

ということなのでしょう。

 また、根を材料にしたわらび餅もいいですよね。ほんのり甘くて幸せになる。

 そう考えるとわらびは春と美味しいもの、から湧き上がる感情、フツフツとした喜びを思い起こさせるスイッチになるのでしょう。


縁起の良い植物ということと伸びやかさが好まれるのか、お祝いの時によく見る「のし」の字もわらびを模しているそうで。 
調べれば調べるだけ、へえーとなります。 

江戸期にはこういった調査、解説なしに、ぽんぽんとお互いの了解が得られたのでしょう。
それにしても本当にこの時期の意匠は縁起をかついだものが多いです。

また、教養としての故事などをそっと装飾品に組み込んでいることも多い。
知ってる人しかわからない符丁として目でお互いの粋さを図り合う。

そんな世界だったのだろうなと思います。

刀装具を見ているとそういった古いことから、技法から、科学的な冶金のことから、人文学的な手がかりとして
いろんなことを教わることができるのも楽しいですよね。 

このわらびを拵えにし、腰に差し、寒い早春に暖かな春を待ちわびていた、お洒落な武士の生活が垣間見られるような気がします。
時代的には江戸中後期ごろ、まだまだ差料を楽しむことができた時代のものでしょう。

幕末にかけて不穏で実践的になっていくとまた無骨なものも好まれた…ということを小耳に挟んだことがあります。
が、文献を類ってはいないのでゆくゆくは文献を当たれればと思ってます。



私が人にこういったネット上などで刀装具のお話をさせていただく時に相手として想定しているのは、
実は右も左も分からない10年ぐらい前の自分に、

”あの疑問はこういうことだったのよ〜”

という気持ちでお話ししてることがおおいです。 
そのため、海千山千の方には本当に物足りないだろうなとも思います。

長いこと、色々なお客様に販売もしていますが、お客様が教えてくださることが面白すぎていつもワクワクしてしまう。
また、お話をしていただいてるときのキラキラしたお顔もまた見ていて嬉しくなってしまってなかなか自分で学者さんのようには勉強できてないな…とは思います。

なのでもう、物足りないという方どんどんツッコミを入れて頂けるとうれしいです。

 もともと、油絵や、現代美術を学んでいたので、日本文化は謎すぎて。 
明治、戦後と大きな価値観の変遷を遂げた後に生まれ、
江戸文化は、今のヨーロッパやアメリカ以上に異国だなぁと感じることもあり、

それでいて祖父母たちからほんのり聞いた文化とも地続きで、たぐると意外な繋がり方をしたり。

こうだという予測をおおらかに裏切られることが多い日本の文化、意匠、刀装具の世界にすっかり夢中です。 

単純に、貴金属、ジュエリーとしてヨーロッパでコレクションされてきた歴史もありますし、
美術と経済ということに興味もあった私にもたまらない世界なのです。  

完結に、ということなのに冗長になってしまいましたのでこの辺で。